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エンタメ
2012年10月01日00:00

【連載】うしろシティ交換小説 ――29時間目『あからさまな布』/30時間目『終わりと新曲』




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前回まではこちら


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kaneko_29h_6049「あと5分でスタート、うぐ、じゃぞ!」
控え室のテントに入ってきた
怪し本さんがゴリラにぶん殴られながらそう言った。

テントから出たらおーい、という声がした。
フルメイクの
殴り林が駆け寄ってきて、出てやってもいいぞ、と言ってきた。
尻川がその言い方にむっとしたのか殴りかかったけど、圧倒的に負けたため、出演が決まった。
ふと、嫌な予感とリズムが聞こえて落ちていた布をバッとめくると、
粉連続がいた。
粉連続があわてて3冊のハードカバーの本を隠した。タイトルだけ見えた。
「警戒心をもたせない話しかけ方」、「友達のつくりかた」、そしてボロボロになった「はじめてのドラム入門」だった。
「ちがうからな。」
という
粉連続の声と同じタイミングでぼくはそっと布をかけて、テントに戻った。

「よーし準備オッケーだ!」
そう言った全裸で目やにをびっしりつけた
尻川を先頭に、ぼくらハムスターズの4人はステージに向かった。視界のすみっこで、布が動いた気がしてビクッてなった。
「風に吹かれてちょっと動いただけさ。」
亀文字が意味ありげにそう言ってウインクをしてきた。よくわからなかった。
ステージの明かりがもれていて、そこで初めて気づいたんだけど、
亀文字の肌が銀色ではなくなっていた。
ぼくは
尻川にその発見を伝えて、自分のところどころ銀色の体を見た。ちょっと前まで亀文字もおんなじような感じだった気がするんだけどなぁ。

ステージに上がると、ひさしぶりの大観衆でテンションが上がった。
客席では始まる前からテンションの上がった
$口さんが刀を振り回していて、横にいた亀文字博士は、ちょっと切られていた。
ガリガリの人もいた。何かがふっきれた優しい表情で、頑張れ弟!と書かれた横断幕をふっていた。その横断幕も、ちょっと切られていた。
美し子さんも見つけた。相変わらずカメラマンみたいなのに囲まれていたけど、何人かは、ちょっと切られていた。
鉄下駄の先生なんて、まっぷたつになっていた。

「もう絶対音感の仕組みがないから不安だなぁ。」
と言いながら
亀文字が、うちの店の買い物袋からオーボエを出した。
気合いを入れて早めにガソリンを口に入れていた
殴り林が、客席の盛り上がりにゴクンと喉をならした。たぶん、飲んじゃったと思う。

ステージのうしろの方にあった布が空中に舞って、ドラムの音が始まった。
尻川の鼻ちょうちんが、割れた。

 


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asuwa_30h_6054緩やかなドラムのリズムをしばらく聴いてから、ベースを重ねる。
小雨が降り出した会場に、
$口さんからもらったベースがよく響いた。ギターと同時にオーボエの音が加わる。
その音にビックリしてお客さんもぼくたちも亀文字を見る。

聴いたことがないくらい素敵な音色だった。

「少し下手くそになって、すごく良くなったな。」
怪し本さんがメスの猿に引きずられ奥に消えて行きながらそう言った。
美し子さんも、美し子さんをいつも見つけるカメラマンたちも、じっと演奏を聴いてくれている。
ガソリンを飲んだ
殴り林は、ステージ上でしばらく青白い顔のまま直立不動だったけど、2曲目の最初くらいで
「きもち悪くなっちゃった。きもち悪くなっちゃった。」と言いながらトイレに走って行った。

亀文字は踊るようにオーボエを吹いて、目が合うとニコニコと笑った。
尻川は濡れて重くなったズボンがずり落ちてきて困っているみたいだったけど、しばらくしてギターで股間が隠れると分かったのかズボンを脱いだ。

後ろを振り向くと、粉連続が見たこともない笑顔でドラムを叩いていた。
でもぼくと目が合うと、一瞬でいつもの真顔になった。

少しずつ雨足が強くなってきて、体が痛く感じる。
ピックを持つ指も雨に濡れて滑った。
親指の柔らかいほうは大丈夫だけど、人差し指の固い銀色が濡れると滑ってダメだ。
ピックを落とさないように手に力を入れて演奏する。
腕の銀色のところがビリビリしてきた。

ふと客席を見渡すと、興奮して日本刀を振り回す$口さんの向こうに、ぼくのお母さんがいた。
背の小さなお母さんは、前の人の影になりながらこちらを見ていた。
慣れない場所で両手を祈るようにしながら心配そうにしている。
ぼくは昔のことを思い出した。
まだお父さんが居た頃のことや、それよりもずっとむかしのぼくがまだしょうががくせいだったころのこと。
おかあさんがきれいだたことやおとうさんのおててがおおおきくてあたかかかったことぼくがないてでおかあさんをこm、あらせたごtお

 

体の中が「ボン」と鳴って何も見えなくなった。

 

この前尻川に渡された新曲に歌詞をつけて、みんなに見せる。
亀文字はすぐにオーボエを取り出してアレンジを考えだした。
尻川もすぐに4コマ漫画の単行本を取り出して熟読し始めた。
窓の外で「パン!パン!」と革パンの太ももを叩いてリズムを刻む音が聴こえる。
さっき
尻川の家に来る途中で粉連続を見かけたけど、窓の外で変な音を立てているのは誰なんだろう、と気味が悪かった。

「ちょっと雨水が入ってダメになっちゃってただけだよ。」
ハムロックフェスティバルの3日後、
博士の研究所の地下室で目が覚めた。
周りを取り囲むお母さんやお父さんや友だちのみんなに意識がいく前に、天井の変な模様を見てとても懐かしい気持ちになった。
昔と変わらない天井。灯り。
亀文字と初めて出会ったのもこのベッドだった。
左を向くと、今は空のベッドに身体も頭も全部包帯で巻かれた
尻川がいたことも覚えている。

 

新曲を早く演奏したくてウズウズしているぼくと亀文字は、尻川のお母さんが出してくれたチョコパイを全部食べ終わると、寝こけている尻川の手を引っ張って亀文字の家の離れに向かった。
亀文字博士の家の庭を掃除している美し子さんと、そのとなりで火を噴く殴り林を無視して離れへ駆け込んだ。

楽器を持って円になり、みんなと目を合わす。

そして、どこからか鳴り出した心地良いドラムをしばらく聞いたあと、ぼくは前よりも柔らかくなった人差し指で、ベースを弾いた。





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●うしろシティ
左から金子学、阿諏訪泰義。それぞれ別のコンビで活動していた2人が、2009年にコンビ結成。芸人たちの間でも注目株として名前が上がる若手コント師。松竹芸能の劇場「新宿角座」を拠点に活動している。初DVD
『街のコント屋さん』が好評発売中。
・金子 公式ブログ→
http://ameblo.jp/ushirocity-kaneko/
・阿諏訪 Twitterhttp://twitter.com/ushirocityaswa






 




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