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2012年03月15日00:00

【新連載!】うしろシティ交換小説 ――3時間目『春だけど水はまだつめたい』/4時間目『カレーの匂いと大都会』



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前回まではこちら

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kaneko03-1_6022川沿いの風が亀文字の髪をなびかせて、銀色の板みたいなものや、赤や黄色みたいなものがそこから見え隠れしていた。
まるでアンドロイドのようだったけど、まさか
亀文字がアンドロイドなわけがない。
近くにいた小学生ぐらいの男の子たちが
亀文字を見て口々に、あっアンドロイドだ!と言った。
ぼくと
尻川は変わった子たちだなあ、と笑った。
亀文字はまったく笑ってなかった。

「おれ、小さいころの写真がないんだよ。」
「なんだよ急に。」
「普通赤ちゃんのころの写真とかさ、入学式の写真とか、家族旅行に行った写真とかあるだろ? ないんだよな、そういうの。」
「なんの話? うわあ。」
つまずいて土手からころがり落ちながら
尻川が聞いた。
「おれは東京で生まれて、中学からこの町にきた。2歳のとき夜中に熱をだして大変だった。保育園のときはみゆきちゃんて子が好きだった。小学2年生のとき自転車に乗れるようになった。10歳の誕生日プレゼントにはサッカーボールを買ってもらった。毎年正月と夏休みは家族みんなで北海道のじいちゃんの家に泊まりに行った。記憶はあるんだ。でも写真はない。」
亀文字は少し照れくさそうに、でもモーターみたいな部分には触らないように首もとをかいた。
モーターみたいな部分があるなんてまるでアンドロイドのようだったけど、まさか
亀文字がアンドロイドなわけがない。

「プハッ、なんの話?」
勢いを止められず川に入ってしまった
尻川が、川から顔だけ出して聞いた。
「今度おれんちにも遊びに来いよ。駅の裏の、煙草屋さんの近くだ。」
駅の裏、確か町のみんなから変人扱いされている
亀文字博士の研究所がある辺りだ。
亀文字博士の家の近くじゃん。おれ博士に小学生のころ林檎のラジコン作ってもらったんだよ。」
「そこがおれんちだ。
亀文字博士はおれの父親だ。」
まさか
亀文字亀文字博士と親子だなんて考えもしなかった。
そのとき、ものすごい音をたてて近くをトラックが通っていった。
「そう、おれは博士の作ったアンドロイドなんだ。アンドロイドにも、バンドなんてできるのかな。」
「すごい音だったね!ごめん今なんてゆったの?」
亀文字はウィーン、という音とともに振り返り、いや、何でもない忘れてくれ、と言った。
ぼくは変なやつ、とだけ言った。
下流の方から、ねえなんの話ー?という声が聞こえた気がした。

 

kaneko03-2_6042尻川の家にあった洋楽のCDは3枚だった。
尻川が体をふいている間、亀文字が、いっぱい持ってるって言ってたよね、とつぶやいた。
ふきおわった
亀文字がチョコパイを3つ持って部屋に戻ってきた。
「どういうバンドにするかってやっぱり大事だと思うんだよね。」
「お前、パンツはけよな。」
チョコパイを食べながらみんなで洋楽を聴くことになった。
誘っておいてなんだけど、どういうバンドにするかなんて考えてなかったのでなんだか申し訳ない気がした。

1枚目、2枚目とバッハを聴かされたあと、3枚目の最初の曲が流れて、はっとした。
「これ、父ちゃんがいつも風呂で歌ってた曲だ!」

 

  


















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―― 父ちゃんの歌ってた曲。なんで父ちゃんはこんな曲知ってたんだろう?

asuwa04-1_5899自分の部屋でさっき尻川から借りたCDを聴きながら思った。
父ちゃんの歌っていた曲に聴きなれない変な楽器が使われていて、
尻川がオーボエってやつじゃないか、と言った。
「オーボエはこういう音だから違うよ。」
そう言うと
亀文字はズボンを脱ぎ、左の太ももに内蔵されていたオーボエをこっそり外して吹いてみせた。
その音はきれいだったけど曲で使われていた音とは違った。
しばらくオーボエに聞き入っていると、突然
亀文字の目が赤く点滅した。
「やばい残り20%だ。充電しなきゃ。」
そう言うと、キャタピラモードに切り替えて慌てて帰っていった。

いぐさの匂いなんてぼくが生まれるずっと前にしなくなっていた畳に寝っ転がり、曲を聴きながら昔の父ちゃんの事を考えた。
お酒は飲まない。カレーが大好き。粕漬屋を閉めるとすぐうちに帰ってきて学校の宿題を手伝ってくれた。それくらい。
父ちゃんは父ちゃんであって、どういう人なのかなんて全然知らなかった。

「完成ーっ!」
1階の台所から母の大声が聞こえた。母はご飯が出来上がるといつも、大きな声で嬉しそうにそう言うのだ。
あまりお腹は空いていなかったが、急な階段を降りた。
夕飯は父の大好きなカレーだった。











asuwa04-2_6061そもそもカレーとは複数の香辛料で味付けしたインド発祥の料理だが、驚くべきことにインドに「カレー」という料理はない。なぜならインド料理は基本的に複数の香辛料を使っていて、全てカレーだからだ。もちろん様々な味が存在するが、日本でいう「おかず」という言葉に似ていて、それぞれ別に料理名が存在する。
今日のカレーはヨーグルトで漬け込んだ鶏もも肉を使った、スパイスたっぷりチキンバターカレー(ムルグマカニ)だ。
コクがあってスパイシーなムルグマカニは絶品で、お腹は空いていないはずなのにペロリと平らげた。

「父ちゃんってさ、今どこに住んでるの?」
ぼくの食べっぷりを嬉しそうに見ていた母に聞いた。
「荻窪よ。」
聞いたことのない街だった。東京の荻窪。高層ビルや繁華街、スクランブル交差点に109……。
ぼくはテレビで見た東京のイメージを膨らませ、大都会・荻窪を歩く父を想像した。
「父ちゃんって、どんな人だったのかなぁ。」
「なによ。死んじゃったみたいな言い方じゃない。」
そう母が笑って言った時に家の電話が鳴った。

なんとなくだけど、ぼくはそれが父からの電話だと思った。

次回以降はこちら

  

 







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タイトル決定会議、難航……


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初回となる前回、タイトルが決まっていなかった本連載。
お二人には「次回のアップ前には決めるので、考えておいてください」と宿題にしていました。

そしていざタイトル決定会議スタート。
いくつか案が出てきますが、「○○○だとこの後のネタバレだし。。。」
と案を出した本人がダメ出ししたりで、なかなか一本に絞れず……。
途中、席を外して戻ってきたマネージャーさんが、思わず
「ものすごい煮詰まった空気が流れてますね~」と言うほど()

そんな中で金子さんが挙げた案のひとつが、

「チョコパイでござる」

ござる……?学園モノのはずじゃ!?
と阿諏訪さんをはじめ全員で問うと、
「ここから時代劇にしていく」と言いだします。

アタマの中にストーリーが展開できたのか、ひとりでクスクス笑い出す金子さん。
「さすがに“ござる”はやめましょう……」と説得します。

そんな中、金子さんの3時間目に出てきたチョコパイの話に。
チョコパイは子供のころと大人になってからの意識がかなり違うお菓子だと。
「子供のころ、友達のうちでおやつにチョコパイが出てきたら『おぉ~!』って思ったよね」。
確かに大人になってからは感じない思いを抱くお菓子の象徴な気がしませんか?

ということで、タイトル決定。

うしろシティ交換小説「チョコパイでてきた」

です!

この後、どんな形でチョコパイが出てくるのか、それとも出てこないのか……。
それさえも今後のお二人次第。
「やっと出てきた!」もしくは「いつ出てくるんだよー!」
いろんな気持ちで次回以降もお楽しみいただければ幸いです。



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●うしろシティ
左から金子学、阿諏訪泰義。それぞれ別のコンビで活動していた2人が、2009年にコンビ結成。芸人たちの間でも注目株として名前が上がる若手コント師。松竹芸能の劇場「新宿角座」を拠点に活動している。初DVD
『街のコント屋さん』が好評発売中。
・金子 公式ブログ→
http://ameblo.jp/ushirocity-kaneko/
・阿諏訪 Twitterhttp://twitter.com/ushirocityaswa


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