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エンタメ
2012年03月01日12:00

【新連載!】うしろシティ交換小説 ―― 1時間目『春休みの準備』/2時間目『話し合いと打撃音』

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「東京に行ってミュージシャンになる。」

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その言葉をきいたときの母の顔が忘れられない。
ぼくはそのとき中学二年だった。

バンドをするためにはメンバーがいる。
卒業式の最中、誰を誘うか考えていた。
高校に入ってからでも良かったけど、春休みの間にやれるだけの準備をしておきたいと思っていた。

となると同級生を誘うのが手っ取り早い。

尻川はどうだろう。
同じ高校に行くことが決まっているから頻繁に会えるし、ギターを持っている。
さらに
尻川は女の子にちやほやされたい気持ちが強い。そういう奴はバンドに向いている。
ただ
尻川は人前で何かをすることが苦手だった。
文化祭や運動会などで注目を浴びたとき、
尻川は必ず腹をこわした。そういう奴は向いていない。

亀文字も同じ高校に行く。
亀文字は音楽の授業中に絶対音感があることが判明して話題になった。
バンドをやるうえでそういう奴がいると心強い。
ただ、その話題は一週間後にもっと大きな話題に押しやられた。
亀文字が女子にすけべな質問をして、全て「いいえ」で答えさせた。
亀文字はその女子ひとりひとりの「いいえ」を持ち前の絶対音感で楽譜に書き起こし、
本当に「いいえ」と思っている女子のドレミと、
嘘をついて「いいえ」と言っている女子のドレミにははっきりと違いが存在すると発表した。
これが当たっていたのかどうかはわからなかったけど当然嘘のドレミの女子は怒った。
亀文字は女子の信頼を失い、男子の間で亀文字様と呼ばれるようになった。

あとは誰がいいかな、そもそも何人組がいいんだろ、あ、卒業証書を受け取りにいく尻川が前屈みになっている、と考えているうちに卒業式は終わった。

  

kaneko01-2_6048卒業式が終わったあと、みんなで写真を撮った。
嫌われていた担任の
殴り林がその日は優しくて、カメラマンをしてくれた。
最後の一枚でセルフタイマーをセットしていたのが見えたので、
殴り林が笑顔でこっちに向かってきたタイミングで全員がにげた。
あとでその写真を焼き増してもらったら、立ち尽くす
殴り林の背中の寂しさがすごかった。
みんなで逃げながら笑って、これで中学校生活が終わったんだな、と思った。

帰り道で尻川亀文字にバンドをやんないかと声をかけた。
案の定
尻川は乗り気で、一緒に亀文字を説得した。
高校でバンドやったらモテるぞ、
尻川はギターひけるからさ、ぼくと亀文字はそれぞれなんか楽器を覚えてさ、お腹痛い、と話していると、
亀文字はおまえんちバンドなんてやって大丈夫なのか、と言ってきた。
一年前の事を言ってるんだな、とわかった。

ぼくが中学二年生のとき、家に帰ると居間で両親が話し合いをしていた。
父がもう決めたんだ、と言っていた。
「東京に行ってミュージシャンになる。」
まさかの展開だった。もうすぐ四十になる父が強烈な決断をしていた。
その言葉をきいたときの母の顔が忘れられない。

そして父は実際に東京へ行った。
母は怒っていたけど、ぼくはその日からバンドをやろうと決めていた。
父は風呂場でよく歌を歌う人で、ぼくはそれが好きだったからだ。
父の後ろで演奏したいと思ったからだ。








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asuwa02-1_6051卒業式の翌日、ぼくらは駅前のファーストフード店に集まった。
田舎町の大型ショッピングモールのフードコーナーにぼくが着いた時すでに二人はいて、テーブルにビッグバーガーのセットを食べ終えたゴミが散乱していた。
「遅せぇよー。」
「ごめんごめん、家の手伝いがなかなか終わらなくてさ。」

ぼくの家は地元ではわりかし有名な老舗の粕漬け専門店で、昔から学校が休みの日などにぼくも手伝っていた。
とくに父が上京してからは、学校が終わったあとも母の手伝いをよくしている。
これから高校入学までは毎日手伝わされそうで憂鬱だった。

そもそも粕漬けとは、野菜や魚介類を酒粕に数日から数ヶ月漬けて食する加工食品である。
塩、砂糖、味噌などを加えた酒粕に、内蔵をとり適当な大きさに切った魚介類(鱈、鮭、イカ、鰆など)を漬け込む方法が一般的だ。
スーパー等で売っている粕漬けは周りについた粕を水で洗い、グリルで焦げ目がつくまでじっくり焼けば、お酒にもご飯にも合う。
高級店で売っているものは、粕を水で洗わず焼いて食べても濃厚で美味しい。

大量の鮭を粕の樽に漬ける作業を思い出しながら、二人に遅刻を詫びた。
申し訳ないという気持ちより、二人が音楽の雑誌を手に持っていたことが、嬉しくて照れくさかった。
二人とも乗り気なんだ……!

ぼくがメロンソーダを買って戻ってくると、尻川のギターの話になっていた。
尻川は、昔バンドをやっていた親戚のおじさんからもらったテレキャスターというギターを持っていて、けっこう弾けるらしい。
実際、2年の文化祭の時に学校のロビーで自主的にギターの弾き語りのようなパフォーマンスをしていた。
エレキギターを弾く時に必要なアンプがないから、カチャカチャ情けない音が鳴っているなか、
緊張からくる腹痛で、ギターの音よりも大きなお腹の音がギャラリーの笑いを誘っていた事をよく覚えている。
あとで
尻川に聞いたら、けっこう漏らしていたらしい。

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リュックからノートを取り出した尻川が、バンド名を決めようと言った。
いくつか考えてきたらしい。
そして
尻川のもってきたバンド名候補の「ナイト・アサシン」がダサいかカッコいいかの話が熱を帯び始めた頃、ぼくは右斜め前の席に座っていた男と目が合った。東中の粉連続だ。

粉連続はぼくの住む地区にある4つの中学校に名を轟かせるワルで、いつもジージャンにジーパンの半ズボン、手には指の出た革手袋をはめていた。噂も多くて、東京のヤクザと繋がっているとか、100人くらい人を殺しているとか、熊と戦ってギリギリ負けたとか、国道をワニに乗って移動していたとか色々囁かれていた。
どれも
粉連続ならありえそうだ。
「ねぇ。二人とも静かに。向こうの席に
粉連続がいるよ。」
「うそ!?
「振り向くなって。なんか、右手にクルミを2個持ってるよ。」

なるべくワルには関わりたくないぼくらは、尻川のもってきたバンド名候補の「ソリッド・アサシン」と「アサシン・レイニーディ」がダサいかカッコいいかを静かに話し合った。
亀文字が、もうアサシンという単語を絶対に入れるという事なら俺は抜けるという意味の言葉を回りくどく尻川に説明している時に、ふたたび粉連続と目が合った。
粉連続の手にはもう2個のクルミはなく、代わりにドラムスティックを持ってテーブルの縁を叩いていた。心地良いリズムだった。
しばらく聞き惚れていると、音はだんだん大きく激しくなり、すぐに店中の注目が
粉連続に集まった。

  

「俺、オーボエなら吹けるよ。」
地元を通る川沿いの土手を3人で歩いていると
亀文字がそう言った。
店中に騒音をまき散らしていた
粉連続が店長風の人にやんわり注意されているのを横目に、居心地の悪くなったぼくらはバンド名も決まらないままフードコーナーを出た。
そして洋楽のCDをいっぱい持っているらしい
尻川の家におすすめを借りにいこう、という事になった。
「オーボエって、あぁ、あれか。フルートか。」
「……それはフルートでしょ。まぁでも形は似てるかも。」
オーケストラとかクラシックとか、吹奏楽部なんてスカートの長い色白の女子が入るものだ、と決めつけていたぼくはその楽器がピンとこない。

そこから亀文字は、伸びきった土手の草を蹴りながらポツポツと語りだした。
ぼくと
尻川の知らなかった亀文字の過去は、そりゃもうすごかった。

続き(3時間目以降)はこちら

 


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小説のタイトルを決めるはずが……!?

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いよいよ連載がスタートしました!
Ustream配信をした企画会議(ご協力くださった方々、ありがとうございました!)などでいろいろな企画案が出たなかで「交換小説」にしようと決定し、ひとつルールを設けました。

それは「自分の書いた文章を相方に見せないこと」。
相方の文章を読むのは完成してから。本人たち同士ではやりとりせずに、編集部から相方の書いた前回の完成原稿を渡します。
もちろん書いている途中で「ここどうしようか?」というような相談も禁止。お二人にはまっさらな状態で前回の文章を読み、そこから続きを書いてもらいます。
順番は金子さん→阿諏訪さん、「学校が舞台の物語」とだけ決めて金子さんが執筆をスタート。
結果、中学校の卒業式から始まる物語が幕を開けました。

そして、二人それぞれが初回を書き終えた後で小説のタイトルを決めようと集合。
そこで初めて、お互いの前で相方の文章を読んだところ、
金子「“粉連続”は名前としてさすがに厳しくない? すっと頭に入ってくるの俺だけだと思うよ。(粉連続の)顔まで出てきてんの俺だけだよ()
阿諏訪「出てきてんじゃねーか()

といった具合で、タイトルがまったく決まらず……。
では撮影をしながらみんなで考えましょうか、と撮影に移るも、小道具を手にしてどんどん脱線していきます。
(その結果が上の写真。卒業証書を入れる筒、阿諏訪さんが抜くと「ポンッ」とびっくりする音が鳴るのに、金子さんはまったく鳴らず……)

ということで、タイトル決定は次回に持ち越し。
次回から本格的にストーリーが展開していくはずなので、それを踏まえて決定します。
そしてこの「今回のうしろシティ」欄は、その時々のお互いのストーリー展開への感想インタビューや、うしろシティの出演情報・レポートなどをお届けしていきます。

【ツイッター】当連載用公式アカウントを設けました→@web1_ushirocity
ご意見など、ぜひお寄せいただけるとうれしいです(ご本人たちがチェックします)。
「こんなタイトルはどう?」というご提案も大歓迎です!

●うしろシティ
左から金子学、阿諏訪泰義。それぞれ別のコンビで活動していた2人が、2009年にコンビ結成。芸人たちの間でも注目株として名前が上がる若手コント師。松竹芸能の劇場「新宿角座」を拠点に活動している。初DVD
『街のコント屋さん』が好評発売中。
・金子 公式ブログ→
http://ameblo.jp/ushirocity-kaneko/
・阿諏訪 Twitterhttp://twitter.com/ushirocityaswa



 





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